[No Distance小説大会 Vol.03]
[お題:さよならの五日]
その日の夜、私の意識は夢の中だった。
私は父の腕の中にいた。
見上げると父は、私を見ながら泣いていた。
唇をかみ締めて、そんな表情は見たことがなかった。ねえ、なんで泣いてるの?
なにがそんなに悲しいの?横を見ると、おばあちゃんが母と抱き合い泣いていた。
みんな、みんな泣いてる。「この子は、この子はもう一人の…彼女の分まで、幸せにしてあげよう。」
父は、相変わらず涙を流して私に向かってそう言った。
手を上げてみる。ねえ、泣かないで。その涙をぬぐってあげるから。
上に挙げた私の手はもちもちしてて、うまく動かない。
言葉を発しても、「おぎゃあ」しか言えない。そっか、私今赤ちゃんなんだ。
じゃ、これは私が生まれた時の…?
“忘れてる…まだ大切なこと、忘れてる。
私と貴方が一つだったこと、貴方は忘れてる…思い出して、夢じゃないよ。夢じゃないよ。”この声…?夢の中でも聞こえてくるなんて…。
やっぱり、桃子が言ってた心霊現象なの…?
瞬きを繰り返しても、見えてくる風景は一緒。体が誰かに抱き上げられた。…おばあちゃんだ。
「よしよし、よしよし、自分の片手を失ったようなものだものね。
悲しいね、悲しいけど、また会えるよ。」
そこで目が覚めた。
私の頬には一筋の雫が流れていた。「今日って、実季が死んだ日?」
朝、食卓で、そう問いかけた。父も母もどきりとした気がした。
「どうしてそれを…?」
「だって、綺麗なお花が毎年この日に飾ってあるから。私の誕生日の三日後。」「そうよ。今日は実季の死んだ日。」
“思い出してくれた…?ありがとう。でも、まだ足りないよ。”
やっぱり、あの声は実季だったんだ!
でも、足りないって、何が足りないの…?私、まだ何か忘れてるの…?
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