[A Mermeid Princess Tragic]
[07B]


最近、とある噂が巷で広まっている。
ガヤガヤとうるさい酒場で今日もその噂はひっそりと囁かれていた。
「なぁ、おい聞いたか。また出たってよ。」
真昼間から酒を飲んでいたのだろう。赤い顔をした男が隣の男に話しかける。
話しかけられた男も赤い顔をしていた。
しかしその顔は話しかけた男より幾分暗く見える。
「ああ。知ってるよ。おかげで俺達船乗りは沖に出ることができやしねぇ。酒でも飲んでなきゃ、やってらんねぇよ。」
船乗りだという男はそう愚痴をこぼしながら酒をあおり始めた。
「よっく言うよ。お前さんは奴が出る前からロクに仕事なんかしてなかったくせに。
 お前のカミさんがぼやいてたぜ。変な事ばっかり言って仕事に行きゃしないってさ。」
男は笑いながら船乗りの男を小突く。
「女は何も分かっちゃいねえんだ。
 海が啼いた日は沖に出るなってのは昔から船乗りに言い伝えられてきた事なんだぜ。
 嵐が起こるからなぁ。」
船乗りの男は怖い顔をしながら話を続けた。
「それなのによぉ、手前のカミさんが怖いからって沖に出ていった馬鹿な奴らの多い事。
 皆帰って来なかったんだぜ・・・・・・。本当に馬鹿な奴らだ。
 何度も行くなって言ってやったのによ。おっ死んじまったら意味ねぇじゃねぇかよぉ・・・・・・。」
最後は涙を流しながら吐き捨てるように言った。
どうも船乗りの男は多くの仲間を失ったらしい。
泣きながら「もう一杯。」と大声で叫んでいる。
こんな酒場での光景は今ではもう珍しいものではなくなった。
噂を信じない男たちが後を立たなかったからである。
何せ海が啼くという意味が分からない者達が多くおり、朝は太陽がギラギラと照っているのだ。
誰も嵐が来るなどと思う者はいない。
しかし、一人。
また一人。
嵐に遭うようになり、同時に海が啼くのを聞く者も増えてきた。

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