[No Distance小説大会 Vol.01]
著者:藍々 碧

[ 4話]


「どうしたの?変な客でも来た?」

入り口を背にして座っている裕香は、尾方くんが来た事に気付かなかった。

「ううん。ちょっとボーっとした。ゴメン。」
「大丈夫?今日は色々あったもん。甘いもの食べて、元気出そう♪」

何も知らずに、そう振舞う裕香が嬉しかった。
けど、その反面。少しむかついた。

「何も、知らないくせに…」

「え?ゴメン、聞こえなかったんだけど…。」

裕香に問いただされて、自分がその言葉を口に出したのに気付いた。
手のひらに嫌な汗が滲むのを感じた。

-----カチャッ、

テーブルに注文したケーキと紅茶が並ぶ。

いつもなら、目をキラキラさせて、
新作のケーキの味に期待で胸いっぱいなのに。

「わぁー、美味しそう…ね!友枇!」
「う、うん。」
「大丈夫?何か、顔色悪いかも…?」

ふぅ、と裕香に解らない位の小さなため息を1つ吐く。

「全然大丈夫。さ、食べよ♪いただきまーす。」

一口食べた瞬間、口に自然なさつまいもの甘みが広がって、
何もかも、どうでもいいや、ってそう思った。

「美味しいぃ〜…・・」
「私、桃のより好きかも〜!」
「うん♪」
「うんっ、季節限定じゃなく、普通のメニューに入れて欲しい!」

ふと、視線を感じて他のテーブルを見ると、
尾方くんが、こっちを見て、少し笑っていた。

-----ピルルルル

そして、携帯が鳴った。送信者は尾方 忠昭の表示。
告白された時、せめて携帯だけでも、と番号とアドレスを交換しあっていた。

『さっき、俺の顔見て暗くなったろ。
 心配してたら、ケーキ食った途端表情明るくなんだもん。
 可笑しくって。ケーキ、好きなんだ。美味しい?』

「メール?」
「う、うん。お、お母さんから。」
「時間とか?大丈夫?」
「うん。大丈夫。」

『さつまいものロールケーキ、絶品だよ。
 でも、人の顔見て笑うなんて、失礼だよぉ。』

私は、そうメールを返信した。
にやついてしまう、顔を裕香にバレないよう、力を入れながら。

「やっぱり、甘いものの力って凄いんだね。」
「え?どうして??」

「友枇の顔が緩んだ。」

そう言われて、ドキッとした。

「そ・・そう・・かな・・♪ 美味しかったからね!」

顔が緩んだ理由がケーキだったのか、
それとも尾方くんからのメールだったのか、それは解らないけど。

そんな小さな変化も見逃さない裕香の凄さっていうのを改めて感じた。


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